2017年8月9日~11日、浜松にある日系ブラジル人、ペルー人学校ムンド・デ・アレグリア(以下ムンド)にて2泊3日の研修を行った。ゼミでの研究テーマのひとつであるニューカマーの定住外国人、特に日系ブラジル人、ペルー人の教育環境の実態を目で見て肌で感じることを目的に、様々な内容を用意していただいた。実際にポルトガル語で授業を受ける母語体験授業や、子供たちとの交流、校長先生からのお話など盛り沢山であったが、今回は初の試みとしてムンド内で行われる夏祭りにも参加した。事前学習として、ムンドの教員である岡則子先生に東洋大学にお越しいただき、ムンドの歴史や、日本における日系ブラジル人やペルー人の問題について学びを深め、研修に臨んだ。
母語体験授業
体験授業では、私たち学生がそれぞれ中学から高校までのクラスに入り、ポルトガル語で行われる授業を受けた。語学の授業ではなく、数学や物理、哲学など様々な科目でポルトガル語を使って授業をしているため、ポルトガル語が使えることが前提で授業が進められる。つまり、私たちは先生が何を言っているのか全くわからない状況で、どんどん授業が進んでいくのである。先生は、私たちが理解しやすいようにゆっくり、何度も言ってくれたが、全く理解ができないためとても不安な気持ちになった。日本の学校に入れられた外国人の子供たちは、このような気持ちを抱えているのかと身をもって感じた。ムンドの生徒は、このような体験授業の学生を受け入れ慣れているため、私たちがわかりやすいように単語を教えてくれたり、私たちがわかるまで待ってくれたりしたが、もし日本の学校であったら、子供たち同士でのサポートも全くないかもしれない。また、この体験授業で私たちが先生に指され、正解した時に、先生や周りの子供たちが拍手をしたり、よくできましたと言ったりしたのが馬鹿にされているようで嫌だったと話していた学生もいた。こういった視点で考えることも、実際にムンドに足を運ぶまではなかったという。休み時間には、給食を食べながら子供たちと話す時間があった。中学生の女子2人は、以前日本の公立小学校に通っていたという。日本の学校はどうだったと聞いたら、「日本の学校はいじめがあったし、みんな冷たいかんじがした。ブラジル人の方が温かいし今の学校の方が楽しい。」と話していた。これがリアルな声なのだと思った。やはり日本の学校にいる外国人にとっては、いじめの問題や、言葉の問題など、様々な問題がついてまわるのである。授業では学んでいたものの、本当にそういう問題があるという実感はなかったため、この話を聞いてショックだったのと同時に、生の声を聞いてみないとわからないことがあると実感した。
講義
研修の中では、松本雅美校長先生からの講義もあった。主に松本校長先生がムンドを作るに至った経緯などをお話しいただいた。質疑応答では、事前に提出した質問だけでなく、活発に質問が飛び交っていて充実した時間となった。特に印象に残ったお話は、松本校長は誰かのためではなく、自分が後悔しないために学校を続けているというお話である。たくさんの困難に直面してもなお松本校長先生を突き動かしたのは、他の誰かではなく、自分自身だったのである。このお話には驚いたという学生も多くいた。普通、こういった場面でお話を伺うと「子供たちのため、困っている人のため」という言葉が出てくると思うが、松本校長先生は違った。いい部分だけでなく、このように赤裸々に語っていただくことで私たちも興味深くお話を聞くことができた。中には、この先生のお言葉で、自分の考えに自信を持つことができたという学生もいた。
また、浜松市外国人学習支援センターの方からのお話もいただいた。日本の中でも特に日系人が多い浜松市では、公立学校でも支援の体制が整ってきているということがよくわかった。
東洋大学を紹介するプレゼンも行なった。ムンドの生徒の中には、日本の大学に入りたいと頑張っている生徒もいた。ムンドでは大学への進学も力を入れていて、今後こういった生徒がより増えていくといいと思った。
夏祭り
夏祭りでは、小学生から中学生までの全クラスと一緒に「サンバおてもやん」を踊るイベントと、高校生向けのスタンプラリーの二つに関わった。「サンバおてもやん」では、まず初めに私たちが子供たちへダンスのレクチャーを行わなければならなかったのだが、言葉が通じない中でダンスの振り付けを完璧に教えるのは簡単ではなかった。しかし、音楽やダンスなど言葉がなくても通じるものは世界共通であるし、子供たちもすんなり受け入れてくれた。私たちが振り付けを覚える段階では、まだ踊ることを恥ずかしがっている学生もいたが、2グループに分かれて見せ合ったりと工夫して練習したおかげで、私たち自身の仲が深まり、踊ることを純粋に楽しめた。それが伝わったのか、初めは恥ずかしがっていた様子の子供たちも、最後には笑顔で帰っていった。中には楽しかったよとわざわざ声をかけてくれた子供もいて、成功させることができた。スタンプラリーは、ミニゲームに参加し、正解数に応じてスタンプが押されるというもので、私たちはそのミニゲームの内容を考えた。準備が足りなくて初めは岡先生に大変厳しいお言葉をいただいたが、授業の合間を縫って準備の時間を作っていただいたおかげと、全員が積極的に役割を見つけ取り組んだおかげで、なんとか当日に間に合った。ミニゲームは、高校生対象であることと、ポルトガル語しか話せない生徒がいることを考慮して作らなければいけなかったため、難易度といかに伝わりやすいかというバランスを考えるのが難しかった。ジェスチャーゲームや、イントロクイズなど全員が知恵を絞って様々なゲームをした。初めは本当に高校生を楽しませることができるかという不安が大きかったが、子供たちは想像以上に楽しんでいる様子であった。この夏祭りを通して、言葉の壁を超えて楽しむにはどうすれば良いかということを様々な視点から考えることができたのは、とても良い機会であった。そして何より、全員でゼロからイベントを作り上げる経験をしたことで、ゼミ内の団結力もより深まったように思う。
最後に、今回は準備不足が多く、初めはどうなるか焦りと不安が多い研修でしたが、岡先生、松本校長先生をはじめ多くの方々のご協力のおかげで充実した3日間が過ごせたことに感謝します。